真贋分かれるバッハのフルートソナタ①
先日野方区民ホールでのジョイントコンサートが無事に開催され、久々にお客様の前で演奏することができました!
大変な状況の中お越しいただいたお客様や、会場関係者の皆様に深く感謝申し上げます。
さて、今回の演奏会ではJ.S.バッハの「フルートとオブリガートチェンバロのためのソナタBWV1032」を演奏いたしました。バッハは他の大作曲家たちと比べてもフルート作品を数多く残していて、そのレパートリーはフルーティストにとっては宝物のような存在です。
しかしそのレパートリーの全てが本当にバッハの作品なのか、という疑問に2021年現在でも明確な答えが導き出されていないのです。
フルート作品の真贋については学生時代に一通り調べたのですが、この機会に再び調べてみたところ、新たな発見や考え方を知ることができたので、何回かに分けてまとめてみようと思います。
バッハのフルート作品一覧
ソナタ
- BWV1020…フルートとオブリガートチェンバロのためのソナタ ト短調
- BWV1030…フルートとオブリガートチェンバロのためのソナタ ロ短調
- BWV1031…フルートとオブリガートチェンバロのためのソナタ 変ホ長調
- BWV1032…フルートとオブリガートチェンバロのためのソナタ イ長調
- BWV1033…フルートと通奏低音のためのソナタ ハ長調
- BWV1034…フルートと通奏低音のためのソナタ ホ短調
- BWV1035…フルートと通奏低音のためのソナタ ホ長調
- BWV1039…2本のフルートと通奏低音のためのソナタ ト長調
無伴奏
- BWV1013…無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調
協奏曲
- BWV1044…フルート・ヴァイオリン・チェンバロのための三重協奏曲 イ短調
- BWV1047…ブランデンブルク協奏曲 ヘ長調
- BWV1049…ブランデンブルク協奏曲 ト長調
- BWV1050…ブランデンブルク協奏曲 ニ長調
管弦楽組曲
- BWV1067…管弦楽組曲 ロ短調
対位法的作品
- BWV1079…音楽の捧げもの(トリオ・ソナタ)
真贋はさておき、以上がバッハが作曲したとされるフルート作品です。こう見ると本当に多くの作品にフルートが使われていることがわかります。
今回はバッハ作品番号(BWV)の若い順に並べてみました。
この番号を付けたのはバッハ本人ではなく、"ヴォルフガング・シュミーダー"が、1950年に「バッハ作品目録(Bach-Werke-Verzeichnis)」を著する際につけたものです。頭文字を取って「BWV番号」と呼ばれています。
番号はカテゴリ別に分類して付けられています。そして同じカテゴリ内の順番でも(例えば同じソナタ作品でも)、実際の作曲順と必ずしも同じではありません。
まずは作品全体について見ていきましょう。
バッハのフルート作品は主にケーテン時代(1717-23)に作られたとする見方が多かったようですが、近年ではライプツィヒ時代(1723-50)に作られたものが多かったのでは、という考え方が広まっています。
研究者"ウィリアム・シャイデ"の「バッハが1724年7月から11月(ライプツィヒ時代に当たる)にかけて初演した教会カンタータの中に、フルートの特に技術的に高度な独奏パートを含んだ楽章が12曲ある。」という発見を基に、アメリカのロバート・マーシャルは以下のように考察しています。
「バッハの教会カンタータでフルートの使用がこの時期に集中し、その前後の時期ではまれにしか使用されていないという事は、この期間ライプツィヒに非常に優れたフルート奏者が居た可能性が高く、それがフランス人フルート奏者で、ドレスデンの宮廷楽士であったビュッファルダンであると推定できる。」
バッハのフルート作品真贋については多くの音楽学者たちが研究を進めています。
今回は主に次の3人の著名な音楽学者の研究、考察を基に記事をまとめようと思っています。
フリードリヒ・ブルーメ
"ドイツ人音楽学者。「歴史と現代における音楽1巻」で、バッハフルート作品の真作・偽作について言及。1950年代における当研究の、代表的な意見となる。"
ハンス・エプスタイン
"ドイツ出身でスウェーデンで活躍した音楽学者。1972年のバッハ年刊に掲載された「J.S.バッハの通奏低音を伴うフルートソナタについて」において、ブルーメの意見を後押しする見解を示した。"
ロバート・マーシャル
"アメリカの音楽学者。論文「バッハのフルートソナタの真性と成立年代について」において、エプスタインの考察に反論。"
次回からは作品ごとに「残存する楽譜の信頼性・バッハ作品としての真贋」について過去・現在の研究や考察を踏まえながらまとめていきたいと思います。
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